大学寮・学生寮を知る2024.01.12
大学寮ライブラリー特別連載『学生寮のいま』。今回は長年にわたり日本の大学寮に関する研究を行っている日本大学文理学部教授・望月由起氏の執筆による「日本の学生寮のいま」第一弾です。日本学生支援機構(JASSO)の最新調査を基に、本稿では国立、公立、私立の各大学及び短期大学による学生寮の設置率や寮費の差異から、学生生活に影響を及ぼす共有設備に至るまで、日本の現状の学生寮を深掘りします。これらの分析は、日本の高等教育における住居環境に関する理解を深めるための重要な手がかりとなるでしょう。
☑️ 寮の設置状況と多様性: 国立、公立、私立の各大学及び短期大学における学生寮の設置状況と、それぞれの教育機関で見られる寮の多様性について理解できます。
☑️ 寮費の実態と影響: 学生寮の寮費がどのように設定されているか、そしてその違いが学生の選択や生活にどのように影響しているかを知ることができます。
☑️ パンデミックの影響と変化: COVID-19パンデミックが学生寮及び学生生活にどのような影響を及ぼし、それによってどのような長期的な変化が生じているかを把握できます。
今回は、日本の大学および短期大学が設置する学生寮の状況について、日本学生支援機構が2年に1回実施している「大学等における学生支援の取組状況に関する調査1)」の最新の結果(令和3年に実施し、令和5年1月に結果が公表されたもの)をもとに、大局的な視点から示していきます。
そもそも日本の大学や短期大学では、大学寮等の学生生活に関するような施設をどの程度設置しているのでしょうか。
図1は、大学(国立・公立・私立別)および短期大学の「学生生活に関する施設」の設置率を示したものです2)。
多くの大学や短期大学では、「バリアフリートイレ」「食堂・喫茶」「保健管理施設」「学生プラザ・フリースペース」「課外活動施設」「学生団体のための施設」を設置しています。
その一方で「学生寮(寄宿舎)」は、国立大学では96.5%とほぼすべての学校に設置されていますが、私立大学では53.5%、公立大学では38.1%の設置にとどまっています。短期大学全体の設置も44.6%と半数に満たない状況です。日本学生支援機構による平成27年度以降の同様の調査を分析した蝶(2022)によれば、学生寮のこうした設置状況には、大きな変化はみられません。
また令和2年度から令和3年度末までに、「学生寮(寄宿舎)」を新たに設置・増設した(する)理由には、表1のように、設置者等によって異なる傾向がみられます。
第1位 | 第2位 | 第3位 | |
国立大学 | 快適な生活環境の提供 | 学生の経済的問題への配慮 | 外国人留学生の確保 |
公立大学 | 共同生活を通じた規律意識の醸成、コミュニケーション能力の向上、問題解決能力の習得(同率1位) | ||
私立大学 | 快適な生活環境の提供 | 遠方からの学生の確保 | 学生の経済的問題への配慮 |
短期大学全体 | 遠方からの学生の確保 | 快適な生活環境の提供 | 学生の経済的問題への配慮、共同生活を通じた規律意識の醸成(同率3位) |
日本学生支援機構(2022)によれば、令和4年度以降に学生寮の新設又は増築を予定している学校の割合は、公立大学7.2%、私立大学5.9%、短期大学全体4.6%であるのに対して、国立大学では17.4%もみられます。短期大学では学生寮をむしろ縮小する傾向にあり、短期大学全体の3.3%では学生寮を廃止する予定であることも示されています。
続いて、学生寮に付帯する施設についてみていきましょう。
図2は、学生寮を設置している大学および短期大学を対象に、「学生寮に付帯する施設3)」について示したものです4)。
多くの大学や短期大学の学生寮では、「洗濯室」「独立した談話室(スペース)」「共同浴場(シャワールーム)」「共用キッチン」を設置しています。この状況は、特に国立大学で顕著にみられます。こうした学生寮では、共同生活を円滑に送る上でのルールやマナーが求められるとともに、共同生活ならではの経験もできるのではないでしょうか。
3.学生寮の寮費
ではこうした学生寮の寮費は、どの程度かかるのでしょうか。
図3は、大学および短期大学の「学生寮の寮費(月額)5)」について示したものです。
私立大学と短期大学全体では、寮費が「2万円超~3万円」の学生寮を設置する学校が最も多く、それ以上の寮費がかかる学生寮を設置している学校も少なからずみられます。
その一方で、国立大学では寮費が2万円に満たない学生寮を設置する学校が目立ち、寮費が「0~5千円」の学生寮も50.6%の学校でみられます。厚生施設として、学生に対する経済的な援助の一環として整備してきたことが、その背景にはあります。
最後に、学生寮に入居する学生の形態についてみていきましょう。
図4は、大学および短期大学の「学生寮の入居学生の形態」について示したものです。
短期大学全体では、「日本人学生のみ」が入居する学生寮を設置する学校が57.7%と最も多くみられます。
その一方で、大学ではいずれの設置者でも「日本人学生と外国人留学生(混在型)」が入居する学生寮を設置する学校が最も多くみられます。特に国立大学では95.2%の学校で設置し、留学生の増加に伴う措置として積極的に整備充実させています。
しかし日本学生支援機構(2022)によれば、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、大学や短期大学の学生寮の入居率は低下しています6)。
入居者に占める外国人留学生の入居率も低下しており、令和3年度は国立大学17.2%(令和元年度より3.5ポイント減)、公立大学11.4%(同17.2ポイント減)、私立大学7.7%(同9.8ポイント減)、短期大学全体4.1%(同1.6ポイント減)といった状況です。
蝶(2022)によれば、「日本人学生と外国人留学生との共同生活による異文化理解・外国語能力の向上」を学生寮の新たな設置・増設の理由として挙げた学校は、平成27年度、平成29年度、令和元年度の同様の調査では大学全体の約50%に迫っていました。今後、日本人学生や外国人留学生の入居率が回復していくであろう中で、学生寮での共同生活の機会やその質の充実を改めて期待したいと思います。
望月由起(もちづき ゆき)
日本大学文理学部教育学科教授。これまでに、国立教育政策研究所「キャリア教育に関する総合的研究」委員、日本学生支援機構「大学等における学生支援の取組状況に関する調査」「学生生活調査」委員、教職員支援機構「キャリア教育指導者養成研修」講師などを務める。