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大学寮・学生寮を知る2024.03.12

「学習環境」としての学生寮:カナダ ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)の事例- 特集「大学寮のいま」

「学習環境」としての学生寮:カナダ ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)の事例- 特集「大学寮のいま」

大学寮ライブラリー特別連載『大学寮のいま』。今回は、香川大学大学教育基盤センターの蝶 慎一准教授が、世界の公立大学トップの常連校であるカナダのブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)の学生寮を事例紹介します。

💡この記事でわかること(編集部まとめ)

☑️ カナダの大学の学生寮: ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)を例に、カナダの大学における学生寮が果たす重要な役割とその特徴について詳細に理解できます。
☑️ UBC学生寮の教育ミッション: UBCの学生寮は、学生の安全と快適な生活環境を提供するだけでなく、個人的成長と学問的成功を促進するためのコ・カリキュラムやプログラムに特に力を入れています。
☑️ 運営スタッフによる学生寮のサポート体制: Residential Advisor (RA)とResidence Life Manager (RLM)の役割に焦点を当て、UBCの学生寮運営体制(チーム)が学生の学寮生活を豊かにするためにどのように貢献しているかを紹介します。

今回は、UBCにおける学生寮について紹介します。なかでも、学生寮生活に関わる特徴をはじめ、そこで活躍する人たちを概観することで、現在、様々に変化しつつある日本の学生寮に対して何らかのヒントが得られればと考えています。

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UBCの学生寮のひとコマ(UBCにおける訪問調査時:2023年2月20日に筆者撮影)

1.学生寮生活に関わるミッションの重視

UBCは、「教育・学習、研究のグローバルセンターであり、常に世界の公立大学におけるトップ20にランクされている」1)大学の一つです。これまでにも数多くのノーベル賞受賞者を輩出しており2)、多様な学問分野で世界をリードする研究が行われています。一方で、学生のキャンパスライフの充実に力を入れている大学として国内外で知られています3)。特に、初年次経験としての学生寮での学びや生活を重視しており(蝶、 2024)、その姿勢は、同大学における「学生寮での生活に関わるミッション(Residence Life Mission)」の内容に明確にあらわれています。

表1:学生寮での生活に関わるミッション(Residence Life Mission)
図1:学生寮での生活に関わるミッション(Residence Life Mission)

そこで、図1より「学生寮での生活に関わるミッション」の具体的な特徴を2点挙げてみたいと思います。

一つは、学生寮が「安全で安心な生活と学習環境を提供する」という点です。ここから同大学の学生寮は衣食住の「生活」空間であり、かつ多様な教育・研究活動が行われるほかの施設・設備とも関連する「学習環境」でもあることが確認できます。

もう一つは、「個人の成長と学問的成功を促進する教育機会や関連のコ・カリキュラム」4)での「プログラム」の「活用」という点です。ここからは、学生寮が単にキャンパスライフを送るためだけの「生活」空間にとどまるのではなく、学寮生自身が「成長」する場であり、「学問的成功」にも大きく寄与し得る機能も有していることがうかがえます。

日本の大学における学生寮と比較すると、このような「学習環境」としての学生寮、学生自身が「成長」する場としての学生寮、という明確な位置付けが存在することがとても新鮮に感じるかもしれません。それでは、こうしたUBCの学生寮の中では、どのような人たちが活躍しているのでしょうか。以下、くわしく見ていきましょう。

2.学生寮の中で活躍する人たち

(1)RA:Residential Advisor

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「RA」という言葉を聞いたことがありますか。この記事を読んでいる皆さんの中には、自身が居住する学生寮に同様の名称をもった学寮生がいることを思い出されるかもしれません。UBCの学生寮では、「RA(Residential Advisor)」と呼ばれる学寮生のスタッフが雇用され、様々な活動を行っています5)。具体的には、学生寮における安全と保安を促進することはもとより、学生寮以外の大学内、キャンパス内で利用可能なリソースや関連する情報を分かり易く提供しています6)。また、友人関係づくりやコミュニケーションやウェルネスの向上にかかるイベントの企画実施、多様なコミュニティづくり、生活上のトラブル対応や問題解決の支援などにもサポートを行っています7)

例えば、UBC発行の「RA」の業務記述書を読むと、図2に示す通り、「RA」には実に多様な業務内容が明示されていることが確認できます。とりわけ、「コミュニティ・サポートとエンゲージメント」については、「ピア・サポート」や「アクティビティとイベント企画」が中心的な柱として掲げられています(図2参照)。「学寮生どうしによる健康、安全、安心、コミュニティ形成、自己啓発を支援すること」で、学生寮で構築される「経験をより充実したものにする手助け」する大切な役割が「RA」には与えられているのです8)

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図2.「RA」に必要とされる主な業務内容(一部抜粋)

そして、「RA」は、学生寮という空間において自身も学寮生として多様な活動に参画することで、はじめに1.で紹介した「学生寮での生活に関わるミッション」の推進にも大きく貢献していると言うことができるでしょう。

次に、「RA」にはどのような資格が求められているのでしょうか。図3は、「RA」に必要とされている資格について、必要最低限の資格内容、望ましい・好ましい資格内容、2つに分けて整理したものです。ここでは特に後者の内容を見ていきましょう。

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図3.「RA」に求められる資格(一部抜粋)

具体的に図3を見ていくと、「対人関係スキル」、「コミュニティと積極的に交流する能力」、「口頭でのコミュニケーションに長けている」など類似するスキルや能力などが挙がっていることが分かります。言い換えれば、学生寮のなかで「RA」としての様々な業務を遂行することを通じて、このような対人関係やコミュニケーションに関わるスキルや能力を(さらに)身に付けることができるかもしれないのです。

(2)RLM:Residence Life Manager

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「RA」のほかにはどのような人たちが活躍しているのでしょうか。

続いて紹介するのは、「RLМ(Residence Life Manager)」と呼ばれ、常勤で働いている学生寮の専門職の人たちです9)。「RLМ」は、学生寮に関する「豊富な経験とトレーニング」の実績を有しており、UBCのキャンパス内で広く学寮生に関連する多様なリソースについての「確かな知識」も持っています10)。また、各々の学生寮の「居住エリアに住み込み」、「学生の行動を管理する」業務も担っており、総じて学寮生が学生「生活を前向きに楽しめるようにする責任」を持っています11)

2023年2月、筆者は、UBCの学生寮の訪問調査時に「RLМ」の方とお会いし、お話をうかがうことができました。特にお話の中で印象的だったのは、「RA」が学生寮の中で果たす教育的な役割についてです。UBCにおける学生寮には、「RA」が多くの一般の学寮生と一緒に生活と学びの機会を共にしています。そして、「RLМ」の専門職によってきめ細やかな教育的な関与や支援が行われています。カナダの大学の学生寮と聞くと、写真のようにきれいで気持ちの良い居住スペースやそこで提供される教育サービス、豊富なイベント企画の中味に注目されることが少なくありません。UBCの学生寮から見えてくるのは、このような取り組みの基盤となっている教育的な学生寮の「ミッション」と、それらを促進する人たちの存在、活躍なのです。

3.「学習環境」としての学生寮とそれを支える取り組み

今回は、UBCにおける学生寮を取り上げ、その特徴を概観してきました。あくまでも一つの国の一つの学生寮の事例にはなりますが、今日カナダの大学での学生寮ではいったい何が重視されているのか、どのような人たちが学生寮の運営に携わっているのか、について少し垣間見えてきたのではないでしょうか。武田(2023)によれば、最近では同じカナダのマギル大学(McGill University)で性的指向・性自認のあり方への対応をはじめ、ジェンダーに対する支援の充実など配慮すべき多様性や包摂性をめぐる戦略的な取り組みが始まっているそうです。こうした取り組みは、他大学、そしてそれらの学生寮にも広がりを見せていくことでしょう。UBCの学生寮、ひいては、カナダの学生寮がどのような展開を見せていくのか、引き続き、目が離せません。

1)UBC (n.d.)“ABOUT UBC”.https://www.ubc.ca/about/ (最終閲覧日2024年1月31日)
2)Office of Research Prizes and Awards, UBC(n.d.)“UBC’s Nobel Laureates”.https://prizes.research.ubc.ca/ubc-award-winners/ubcs-nobel-laureates 最終閲覧日2024年1月31日)
3)前掲注1)を参照。
4)コ・カリキュラムは、「学生の学習成果の促進を目的にした教育的な学生支援プログラムの総称」(蝶・安部、2023、156頁)と定義される。
5)UBC Student Housing and Community Services(n.d.a)を参照。
6)UBC Student Housing and Community Services(n.d.b)を参照。
7)前掲注5)を参照。
8)前掲注6)を参照。
9)同上。
10)同上。
11)同上。

付記

本記事は、JSPS科研費19H01688による研究成果の一部です。研究代表者の安部有紀子准教授をはじめ、共同研究者の皆様、UBCの教職員の皆様にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。

参考文献

  • 蝶慎一・安部有紀子(2023)「学生の学習を促進する日本の学寮プログラムとアセスメントの実態と課題」『名古屋高等教育研究』第23号,141-159頁。https://doi.org/10.18999/njhe.23.141(最終閲覧日2024年1月30日)
  • 蝶慎一(2024)「カナダの大学における学寮の実践とその教育的意義―ブリティッシュ・コロンビア大学の事例を手がかりに―」『香川大学教育研究』第21号(掲載予定)。
  • 武田詩織(2023)「カナダ・マギル大学における性的指向と性自認をめぐる公正性,多様性,包摂性(ED&I)の取り組み」『医学教育』Vol.54 No.1,51-54頁。
  • UBC Student Housing and Community Services(n.d.a)“Residence Advisor 2024–2025”. https://vancouver.housing.ubc.ca/wp-content/uploads/2023/11/Residence-Advisor-Job-Description-2024-25.pdf(最終閲覧日2024年1月31日)
  • UBC Student Housing and Community Services(n.d.b)“Meet the Team”. https://vancouver.housing.ubc.ca/residence-life/meet-the-team/(最終閲覧日2024年1月31日)

筆者プロフィール

蝶 慎一(ちょう・しんいち)

香川大学 大学教育基盤センター准教授。
高等教育における学生支援、厚生補導の歴史と比較研究(アメリカ、カナダ、沖縄)、TA(ティーチング・アシスタント)、FD(ファカルティ・ディベロップメント)などを研究。国立大学協会特別研究員、(独)大学改革支援・学位授与機構研究開発部助教、広島大学高等教育研究開発センター助教などを経て、2022年4月より現職。

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