大学プレスリリース2025.01.22
名古屋大学大学院理学研究科の田中 良弥 助教、上川内 あづさ 教授(トランスフォーマティブ生命分子研究所 (WPI-ITbM)※ 兼務)、生命農学研究科の三高 雄希 助教、竹本 大吾 教授、かずさDNA研究所の佐藤 光彦 研究員、名古屋市立大学大学院薬学研究科の鈴木 力憲 講師らの共同研究グループは、アリの巣の中で暮らす好蟻性(こうぎせい)生物(注1)であるアリヅカコオロギ(注2)の一種が、アリの巣という特異な環境に適した逃避戦略を持つことを発見しました。
アリの巣には、好蟻性生物と呼ばれる多様な生き物が暮らしており、その多くはアリと同じ匂いを身にまとうことで、アリからの攻撃を回避すると考えられています。一方で、そのような戦略を十分に持たず、アリに見つかると攻撃される種も存在します。そうした種が多数のアリがいる巣内でどのように攻撃を避けて生活しているかは詳しく分かっていませんでした。
本研究では、この問いに迫るために、アリヅカコオロギのアリに対する逃避行動(注3)を調べました。その結果、このコオロギは比較的ゆっくりとしたスピードでアリの背後に回り込む戦略と、高速で直線的に移動する戦略の2つの逃避行動を持つことが分かりました。興味深いことに、宿主のアリに対して、コオロギは背後に回り込む戦略を優先的に使うことが分かりました。この傾向は、宿主ではないアリに対しては見られませんでした。また、行動シミュレーションから、背後に回り込む戦略は無数のアリがいる中で効率よく食糧を探索するのに有効であることが示唆されました。以上から、このアリヅカコオロギはこれら2つの逃避戦略を状況に応じてうまく使い分けることで、アリの巣内での生活を可能にしていると考えられます。
今後、ゲノムや遺伝子レベルの解析を進めることで、好蟻性生物の多様性を生み出す仕組みの解明につながることが期待されます。
本研究成果は2024年12月31日(日本時間)付国際学術誌『Communications Biology』に掲載されました。